高圧電力に必要不可欠な3種類のトランスとは?
トランスは「変圧器」とも呼ばれ、普段わたしたちが電気を使うためにはなくてはならないものです。発電所で作られた電力の電圧を、需要家が使用できる電圧まで下げてくれる電子機器が「トランス(変圧器)」です。トランスの仕組みや種類、更新時期などについて詳しく解説します。
高圧電力のトランス(変圧器)の仕組みと役割について
一般的に高圧電力の電圧は6,000Vが多いですが、発電所でつくられる電気は数万ボルトもの電圧があります。そのため、発電された電気をそのまま利用者に送ってしまっては、電圧が高過ぎて使うことができません。
発電所の電気はいくつかの中継点を経て電線を通って需要家に送られており、トランスはこの中継点で活躍しています。中継点にあるトランスによって少しずつ電圧が下げられていき、最終的に高圧電力の需要家が使える6,000Vまで電圧を下げています。
このようにトランス(変圧器)は、私たちが電気を使う上で必要不可欠なのです。
低圧・高圧・特別高圧の区分について
送電電圧には「低圧」「高圧」「特別高圧」の3種類があります。その区分は以下のようになります。
直流 | 交流 | |
---|---|---|
低圧 | 750V以下 | 600V以下 |
高圧 | 750V超 | 600V超7000V以下 |
特別高圧 | 7000V超 | 7000V超 |
電気には「直流」と「交流」の2種類があります。電流の流れや大きさなどが常に一定である「直流」と電流の流れや大きさが一定の周期で変化する「交流」です。乾電池などは「直流」ですが、コンセントから流れる電流は「直流」です。
低圧は直流において750V以下、交流においては600V以下のものを指します。高圧は直流750V超、交流で600V超7000V以下のもの。直流・交流ともに7000V超のものが特別高圧という分類となります。
高圧電力向けのトランスの特徴
高圧電力向けのトランスは1種類ではありません。
「油入変圧器」「モールド変圧器」「ガス絶縁変圧器」といった種類があるほか、容量は単相の場合は10〜500kVA、三相の場合は20〜2000kVAという範囲で設定されます。こちらについては次の項でも細かく触れていきます。
さらに、電気の利用場所によって電圧や結線、配電系統といった仕様が細かく調整され、どこでも最適な方法で電気を使えるように考えられています。
単相・三相変圧器とトランスの3つの構造
前述の通り、トランスの相数には単相・三相があり、それぞれに「油入」「モールド」「ガス絶縁」とさまざまな構造のものが導入されています。それぞれどのような違いがあるのか、特徴について詳しくご紹介します。
変圧器には単相変圧器と三相変圧器の2種類がある
交流電圧の変圧器の相数は、単相と三相の2種類に分かれます。
単相は主に家庭など少ない電力を使う場所で、三相は工場等の多くの電力を必要とする場所で用いられる送電方法です。よって高圧電力で使用される変圧器は三相変圧器になります。
三相変圧器は単相変圧器を3台使うよりも小型で軽量というメリットがあり、より効率的に電気を送ることが可能です。
原則、単相交流には単相変圧器、三相交流には三相変圧器しか使えませんが、相変換変圧器を設置すれば単相から三相、三相から単相へと変換することもできます。
単相・三相変圧器には、それぞれ主に次の3種類の構造から成る変圧器があります。
1.油入変圧器
油入変圧器は、絶縁性が高く冷却性に優れた絶縁油で満たされた容器の中に、鉄芯と巻芯が入っている変圧器です。
現在、油入変圧器は最もメジャーな変圧器で、世の中の変圧器の約9割を占めています。
油入変圧器の特徴は価格が安いことと、耐過負荷性能に優れていることです。熱に強く、駆動音も小さいことも広く普及している要因となっています。
しかし、油を使用しているため火災のおそれがあり、他の変圧器よりも安全面では劣ってしまいます。市区町村の火災予防条例によっては、固定消火設備を設置しなければならない場合もあり、その際には消火設備用のコストやスペースも必要となります。
2.モールド変圧器
モールド変圧器は、絶縁体に樹脂もしくは樹脂を含んだ基材が使われている変圧器です。一次巻線と二次巻線の全表面が絶縁基材で覆われた構造をしています。
価格は油入変圧器よりも高くなりますが、油を使っていないため火事になるリスクを減らすことができます。また油入変圧器に比べて省スペースで点検も容易というメリットがあります。
ただ、耐過負荷性能が油入変圧器よりも低い、駆動音が大きいといったデメリットもありますので、使用場所やコストによって変圧器を選ぶことが大切です。
3.ガス絶縁変圧器
ガス絶縁変圧器は、六フッ化硫黄(SF6)という不活性ガスを絶縁媒体とした変圧器です。SF6を封入した容器に変圧器が収納されています。
ガス絶縁変圧器の最大のポイントは、不燃性・絶縁効果・安全性の高さです。これにより、消火設備や防災設備が省略できるため、検査や保守の手間を大幅に減らせるというメリットが生まれます。
さらに、オイル漏れ等の心配がないガス絶縁変圧器は環境保護という点でも優れており、現代の社会的ニーズに満たした変圧器であるといえます。
トランス選定で重要な3つのポイント
配電用変圧器の寿命は一般的に20年程度と長いですが、20年が経過してから更新するのはあまりおすすめできません。使用場所や負荷によって寿命は変わってきますし、外観は正常でも突然の停電や火災等の事故が起きる恐れもあります。
故障してから復旧までにかかる時間や費用を考えると、できるだけ早めに更新することが大切だといえます。
1.省エネルギー化には新しい変圧器への切り替えが重要!
変圧器を更新すれば、安全性が保たれるうえに、省エネルギー効果も期待できます。
配電用変圧器は運転時に無負荷損・負荷損という二つの損失が発生します。損失とは、電力が実際に必要なタイミング以外で無駄に使われてしまことで、これによりエネルギーの効率が下がってしまいます。
しかし、新しい変圧器であればこの損失を減らすことができ、エネルギーの消費効率をアップすることも可能になります。消費効率が上がれば、自ずと電気料金の削減にもつながります。また、二酸化炭素の排出量も少なくできるため、地球環境にとっても大きなメリットがあります。
2.トップランナー基準の変圧器で省エネ化!
トップランナー基準とは、配電用変圧器等のエネルギーを多く使用する機器に関し、省エネ型の製品の開発を促進する目的で設けられた基準です。電気の使用量を減らすだけでなく製品自体の省エネ性能を上げることで、消費エネルギーを削減するのがトップランナー基準の狙いです。
2006年に制定されたトップランナー基準により、3割以上の消費効率の改善に成功しました。そして2014年には第二次トップランナー基準が定められ、より消費効率の良い変圧器の開発が推進されています。
3.変圧器の機種選定や容量選定は事前にしっかり検討を
配電用変圧器の更新の際、機種と容量の選定には重要なポイントがあります。価格やサイズ等だけで決めると余計なコストが掛かったり、事故を引き起こしたりすることも考えられますので注意してください。
機種の選定 | 負荷調査や設置場所の温度と発熱量、停電時の対策など運転時に関する項目、消防施行令や自治体の火災予防条例といった法令について確認する。 |
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容量の判断 | 接続される負荷の性質から判断する。負荷投入時の電圧降下に加え、変圧器から負荷までの電圧降下も考慮した上で適切な容量を選ぶ。 |
上記のとおり、機種や容量について事前にしっかり検討しましょう。最悪のケースでは、電動機などが作動しないといった事が起こりうるため、慎重に検討を重ねることが大切です。
高圧トランスの寿命は20〜25年程度!
一般的に「故障に至る危険性が高い状態」になったら高圧トランスの寿命が来たと言えます。しかし、この状態を正確に判断する方法や基準は今のところありません。
昭和に製造された変圧器の中には、30〜40年も動く丈夫なものも存在しますが、不測の事態を防ぐため、一般的には20〜25年程度での更新が推奨されています。
高圧トランスに使われているPCB(ポリ塩化ビフェニル)について
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は熱に対する安定性、絶縁性、そして耐薬品性が高いため、高圧トランスや高圧コンデンサ、安定器といったさまざまな電気機器で絶縁体として使われています。
しかしその一方で、毒性が非常に高いというデメリットも存在します。その毒性は人体にも悪影響を与え、がんや内臓障害、皮膚障害の原因にもなることがわかっています。
そのため、現在はPCBを絶縁油に使用した製品の製造は中止されています。現在も使用中の製品については、使用を停止するよう政府が呼びかけおり、決められた期限内に廃止しなければいけません。
PCB廃棄時の4つのステップ
高圧トランスを廃棄する際は、「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」に則ってPCBを適切に処分・保管することが定められています。
PCBは毒性が強く人体への影響も大きいため、他の廃棄物と同様に処理することが禁じられているのです。
高圧トランスの廃棄は
- 1.油抜
- 2.予備洗浄
- 3.粗解体
- 4.洗浄
- 5.解体
というステップで行われます。作業中に取り出されたPCBを含む油は、脱塩素分解方式もしくは水熱分解方式で分解され、濃度が低くなった状態で排出されます。
今回は、電力の使用に不可欠なトランス(変圧器)について解説しました。
トランスの早めの更新を心がけることで、エネルギー効率の向上や安全性の向上が期待できます。また、トップランナー基準の変圧器を購入することでさらなる省エネ効果も見込めます。
多くの電力を消費する高圧電力だからこそ、トランスを正しく使用して安全性や省エネ効果をアップさせましょう。