低炭素工業炉の2つのメリットと今後の期待点
日本全体におけるエネルギー消費は、工業炉による消費率が全体の20%近くにも達していますが、その有効利用率は35%程度でした。その残りの65%は、空気中に排ガスと共に拡散されていました。
この65%に含まれる大気汚染物質の削減を目的にした工業炉が低炭素工業炉です。
従来の工業炉と比較すると、CO2削減効果のアップとNOxの50%低減、30%の省エネ効果が可能となりました。
近年では、環境負荷が少ない点からも低炭素工業炉の導入がとても注目されていて、日本経済へも様々なメリットがあると考えられています。
今回は、この低炭素工業炉のメリットや補助金事情、そして日本経済への影響もしっかり見ていきましょう。
メリット1.低酸素工業炉は金属加工における炭素の排出が少ない!
低炭素工業炉は基本的に、日常の金属加工で常に発生し続ける炭素の排出を抑制できる大きなメリットを持ちます。これは結果的に二酸化炭素の生成を抑え、環境負荷低減のために大変役立つ設備だと言えるでしょう。
しかし、低酸素工業炉のメリットはエコだけではありません。生産における経済的向上を促す効果を持っています。その理由は、金属加工時に生成される窒素酸化物も抑えられるからです。
過去、省エネ効果の高いリジェネイティブバーナーを使った工業炉は効率良く加熱に必要な1000℃以上の温度を維持するためには、大量の窒素酸化物が発生してしまうデメリットがありました。
そのため、環境負荷の観点から敬遠される傾向がありましたが、低炭素工業炉は炉内の温度を一定に維持しながら、窒素酸化物を金属加工時に減らすことができるので成形加工の効率性を高めることができます。
加工時に窒素酸化物を減らすことが生産性向上のためには、何よりも重要になるのです。
メリット2.低酸素工業炉は低炭素工業炉への補助金制度がある!
生産コスト面だけでなく、環境面でも高い効果が期待できる低炭素工業炉は、国によって各企業体への導入が推進されており、補助金制度が設定されています。ここでは、補助金制度の基本的な概要などを確認します。
中小の省エネ・生産性革命投資促進事業費補助金に含まれる
国は低炭素工業炉導入をスムーズに進めるために、中小企業等の省エネ・生産性革命投資促進事業費補助金と呼ばれる補助金制度を事業者に提供しています。近年は基本的に毎年予算が組まれており、応募者が多くなると見込まれた場合は補正予算の時期を待って再度公募が進められる補助金制度となっています。
既存の工業炉の更新を前提としており、その他工場の建て替えなどに付随する低炭素工業炉の導入でも申請できる補助金制度となっています。
ただ、申請しても絶対に補助金を得られるという保証はありません。国の予算の範囲内で進められる補助金制度なので、認可までにはきちんとした手続きを確実に踏まなければなりません。
補助金の対象者 |
---|
個人事業主 |
事業者 |
中小事業者 |
民間団体など |
補助率 | 1/3 |
---|---|
補助金上限額 | 2億円 |
補助金下限額 | 50万円 |
リースでの活用 | 可 |
問い合わせ先 |
---|
一般社団法人 環境共創イニシアチブ |
TEL:0570-783-755(ナビダイヤル) |
IP電話からのご連絡 TEL:042-303-1533 |
受付時間:9:00〜17:00(土曜、日曜、祝日除) |
それでも、法人だけでなく個人事業主も申請が可能なことから、低炭素工業炉の規模に関係なく補助金を受けられるメリットがあります。
既存建築物省エネ化推進事業でも申請可能
所定の省エネ改修工事に該当する場合に、補助金を受けることができます。
補助率 | 1/3 |
---|---|
補助金上限額 | 1件につき5000万円 |
補助金対象者 |
---|
躯体の省エネ改修であること |
改修工事後に建物全体で15%以上のエネルギー削減が期待できる |
改修後に一定基準以上のエネルギー性能を満たすこと |
改修後の建物の省エネルギー性能を表示すること |
事業費の合計が500万円以上である |
申請年度中に着手する工事である。 |
低炭素工業炉導入における補助金申請に必要な手続は?
ここからは、低炭素工業炉に関する補助金申請について具体的な方法を見ていきます。日本の補助金申請は、その補助金を利用することでどのような効果が得られるかということを国に対してシミュレーションすることから始まります。
低炭素工業炉に関しては、申請時に新しい機器を導入してエネルギー効率がどの程度改善されるかについて、導入計画内で宣言しなければなりません。
導入機器ごとに省エネルギー効果の計算が必要
低炭素工業炉を導入することにより省エネルギー効果の計算をする方法は、補助金申請概要に詳しく記載されています。低炭素工業炉に関しては、申請時に新しい機器を導入してエネルギー効率がどの程度改善されるかを導入計画内で宣言しなければなりません。
計算方法には、2パターンあります。1点目は既存機器使用後のエネルギー使用量を計算する方法で、2点目は既存機器を使用して生産された生産量からデータ計算する方法です。
また、当然ながら導入予定機器に関しても推計を進め、既存機器との比較をします。導入予定機器に関しては生産量を見ることができませんので、機器の仕様からエネルギーの使用量を推計し、導入による省エネルギー効果を推計します。
ネット上から補助金申請のための設備登録も可能
もちろん、そのため現在はネット環境を用いて省エネ効果を計算することが求められます。計算のための既存設備や導入予定設備の情報登録について、ネットからスピーディに進められるようになっています。
この場合、ネット上には設備名や型番はもちろん、機器に関する様々な情報を入力しなければなりません。しかし、手入力をしなくとも自動表示される部分もあるため、手作業で計算をその都度やっていくよりも効率的に計算ができるので、かなり簡単に入力することができるでしょう。
低炭素工業炉は具体的にどんなタイプがある?
低炭素工業炉には、基本的に2つの作動方式が存在します。それは、燃焼式と電気加熱式です。
従来の燃焼式は、石油やガスを使って発火させて、金属加工のための熱を発生させるものです。燃焼式は、炭素や窒素酸化物を発生しやすくエネルギー効率が悪いのが特徴です。昨今は、技術の進歩によってその発生を大幅に抑えられるように改良されていますが、まだ窒素酸化物などを全く発生させないというところまでは来ていません。
電気加熱式には、アーク、誘導、抵抗加熱があります。システムとしては、コイルに巻いたヒーターに電流を流した時に発生する熱を利用して加熱します。
電力制御装置があるので、安定した加熱と温度制御がおこなえます。
燃焼式と違い窒素酸化物が発生することもなく熱効率が良いため、コスト削減と環境負荷低減にもなります。
低炭素工業炉導入により日本経済にどのようなメリットがあるか
この低炭素工業炉は、これから日本中の工場にどんどん普及していくでしょう。今後この経済性の高い工業炉が日本の経済にどのように好影響を与えていくのかということも大変注目すべき部分となります。ここでは、その普及による具体的なメリットを検証していきましょう。
金属加工にかかるエネルギーが大幅にカットされる
低炭素工業炉が鉄鋼業界だけでなく各関連メーカーに導入されることで、加工に必要なエネルギーが大幅にカットされます。
これはつまり、工業炉を維持するための光熱費が大幅に削減されることを意味します。また、メーカーの収益性を改善させて内部留保を大きく増加させる効果を持つことになります。
⇒工場の水銀灯をLEDに変えるだけで電気代1日4万円削減!!
これによって仕事に従事するスタッフの人件費が下がりますし、導入後、加工生産性がケタ外れに向上することは容易に想像できます。さらに、新規の製品が生まれやすくなることも大きなメリットにつながり、メーカーにとってはブランド力をさらに高めることが可能となります。
そして、このような生産効率の高い工業炉を導入することで、受注業者にエコのイメージを持たせることができます。
金属を使った多くの製品においてコストダウンが実現
加工コストの大幅な減少は、顧客側にもメリットがあります。日本は国内の鉄鋼需要が大きく縮小していることもあり、その代替需要を海外に見出しています。
よって、生産コストのダウンは販売価格も下げることになり、海外向けの販売業績にかなり寄与することになります。日本の鉄鋼業界が海外で太刀打ちできない状況が続いているのは、質よりも価格が重視される傾向が世界的に見られるからです。
設備のコンパクト化
低炭素工業炉の性能が向上することで、設備の小型化が可能になりました。
以前よりもスペースを有効活用できることで、作業を効率良く行うことができます。
その結果、生産性がアップして、無駄なコストを省くことにつながります。
そのような状況の中で、低炭素工業炉の導入は日本のメーカーに有利に作用する可能性も高く、コストと日本品質が巧みにマッチした生産物を海外に提供できるようになるのはとても理想的なことだと言えます。