地球温暖化を防ぐ切り札! CCSが二酸化炭素を地中に追いやる!
近年、環境保全に力を入れる企業が増加していますが、環境省は2014年に「環境人づくり企業大賞」という賞を設立し、企業が環境問題に取り組む人材を育成するよう求めています。環境問題の中でも地球温暖化は特に深刻な問題とされます。
そんな中注目されているのがCCSです。CCSとはCarbon dioxide Capture and Storageの略で、二酸化炭素(CO2)の回収や貯留のことを言います。
環境保護に関心のある方や企業様は特に詳しく知っておくべき情報だと思いますので、分かりやすく解説して参ります!
CCS(二酸化炭素隔離貯留技術)って何だろう?
CCSに期待されるのは地球温暖化防止!
CCSは火力発電所などから発生する二酸化炭素を大気に放出される前に回収して、貯留に適した地層まで運んでいき、長期間に渡って安定的に貯留するシステムのことです。
人類は昔から電気を起こす時に石炭や石油などの化石燃料に頼ってきましたが、結果として大気中の二酸化炭素濃度を増加させてしまい、それが地球温暖化の原因のひとつになっていると言われています。
大気中の二酸化炭素濃度の増加を抑えられるため、温暖化の抑制が期待されます。
CCS3つのプロセス
1.分離・回収
二酸化炭素の分離・回収には大きく分けて5種類あります。
個体吸着剤に吸着させる「物理吸着法」、アミン溶液などの吸着液に溶解させる「化学吸収法」、二酸化炭素だけが通り抜ける膜で分ける「膜分離法」、極度の低温で液化させたのち沸点の違いを利用して分ける「深冷分離法」です。
このうち火力発電所の二酸化炭素を分離・回収する時によく使われるのが「化学吸収法」です。
発電所から放出された排気ガスを集め、そこから分離装置を使って二酸化炭素だけを抽出します。そこでできた二酸化炭素を含んだ吸収液を回収装置に掛け、高純度の二酸化炭素を回収するのです。
2.輸送
分離・回収された純度の高い二酸化炭素は、地中に圧入するための施設まで輸送されます。
輸送手段にはタンクローリー車、輸送船、鉄道コンテナ、専用のパイプラインなどが挙げられます。パイプラインは主に海外で使われていて、アメリカ合衆国では枯渇しつつある油田のパイプラインを再利用し、年間約3,000万トンの輸送実績があります。
3.圧入・貯留
高純度の二酸化炭素は、人々の生活空間から遠い、地下1,000m〜3,000mの深い地層(貯留層)に、液体と気体の混在した状態で圧入されます。
貯留層の上には二酸化炭素の透過を防ぐ地層(遮蔽層)が必要で、それによって長い間安定した状態で貯留することが可能になるのです。地中で長い年月を過ごした二酸化炭素は、塩水に溶けたり、岩石の隙間で固まるなどして、鉱物に変化すると考えられています。
貯留層に適した土は火山岩や砂岩などとされます。これらの岩は粒の粗い砂が固まっているのが特徴で、浸透性が高く、二酸化炭素を貯留するのに十分なスペースが確保できるのです。
もう一つの遮蔽層に適した土には泥岩が挙げられ、水が浸透にしにくい、十分な遮蔽能力を持っている、広く厚く貯留槽を覆う、などの特徴を持っています。
また、地震を引き起こすような断層が付近に存在しないことも重要な条件となります。
CCSが抱える3つの課題とは?
技術的な課題
技術的な課題として主に挙げられるのは輸送の規模についてです。
海外での二酸化炭素輸送には先述したパイプラインが多く用いられていますが、IEA(International Energy Agency)が策定した「2050年までに二酸化炭素排出量を半減させる」という目標を達成させるためには、二酸化炭素輸送インフラの距離を現在の100倍に延長しなくてはならないと言われています。
日本国内はもちろん、発展途上国も含めた各国が今後30〜40年、急ピッチで建設を進めていかなければなりません。
コストを下げる努力の必要性
既にお話したとおり、CCSは地球温暖化防止のために行われる作業であり、環境の保全といった形で見返りが得られますが、金銭的な見返りは乏しく、一般の企業が利益を目的に導入することは難しいと言わざるを得ません。
またコストについても、新設の火力発電所の場合、二酸化炭素を分離・回収するのに1トンあたり約4,200円必要とされています。このため政府や民間が協力して低コスト化に努めており、比較的濃度の低い二酸化炭素向けの分離・回収に適した固有吸着剤も開発が進められています。
「アミン」は多孔質の素材にはまり込んでいるような構造になっていて、そこにくっ付いた二酸化炭素を加熱と減圧によって回収します。熱容量の高い水を介さなくて済む分、効率が良いとされ、実現すれば1トンあたり2,000円程度にまでコストを下げられる見込みとなっています。
ただし、こういった技術革新の他に、政府による財的支援も不可欠です。例えばEU(ヨーロッパ連合)では2008年に始まったエネルギーインフラプロジェクトで10億ユーロがCCS事業に投入されており、安全性や効率性が高いと判断されたプロジェクトが支援を受けて運用を始めています。
一方、日本では新潟県長岡市で実用実験が行われ、北海道苫小牧市では実用化もスタートしましたが、2014年の時点で経済産業省地球環境連携室が「知見を積み上げて準備はするが、普及策を取るのか取らないのか、まだ決められない」といったコメントを残しており、他国との比較では遅れを取っているのが現状と言えるかも知れません。
用地確保の課題
先ほどお話しした貯留層や遮蔽層の条件を満たした土地が見つかったとしても、まずは周辺に住む方々の理解を得なくてはなりません。二酸化炭素は廃棄の禁止対象にこそ指定されていませんが、地域住人が「廃棄物処理場」と同じような印象を抱き、場合によっては反対運動に発展することも考えられます。
また、海底を貯留地に選んだ時には「海洋汚染等及び海洋災害の防止に関する法律(海洋汚染防止法)」に基づいた許可も必要となってくる可能性もあります。
先ほどもお話ししたように、北海道の苫小牧市では2016年からの3年間、1年あたり10万トンの二酸化炭素を海底下に送り込むプロジェクトを実施していますが、実現には地元漁協の協力が大きかったとされます。
また、海洋生態系への影響についても、今後きちんと検証していかなくてはならないでしょう。
海外でCCSがどう展開されているのかご紹介します!
1.アメリカは多額の資金で支援
2009年、アメリカのオバマ大統領(当時)はアメリカ再生・再投資法(ARRA)資金から約36億ドルをCCSプロジェクトに支援することを発表しました。そして同年10月、米エネルギー省によって3つの事業社(アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド社、ポートアーサー・エアー・プロダクツ社、レイクチャールズ・ローカディア・エナジー社)が選ばれ、大型商用プロジェクトが開始されています。
また2013年には、次世代CCS技術の18プロジェクトに対して、総額8400億ドルの支援を行うことも発表しています。
2.ヨーロッパ原子力発電からCCSへ?
先ほどもお話ししたように、EU(ヨーロッパ連合)では2008年に始まったエネルギーインフラプロジェクトで10億ユーロがCCS事業に投入されています。対象となったのはオランダのロッテルダム、ドイツのイエンシュベルデ、スペインのコンポステーラ、イギリスのハットフィールド、イタリアのポルト・トッレで、各国の大学や研究所などが実用化に向けてプロジェクトを進めています。
ガスの価格推移などにもよりますが、2030年以降に設立される新しい発電施設の6割以上はCCS機能を完備すると予想されていて、同時に原子力発電への依存度も下がる見通しとなっているようです。
CCSは地球温暖化を防ぐための切り札! でも・・・。
2009年「第15回気候変動枠組条約締結国会議(COP15)」では、国際的な目標として地球の気温上昇幅を産業革命以前と比べて2℃以内に抑えることが定められました。温暖化防止のため大気中の二酸化炭素を削減しなくてはならないのは言うまでもありません。
そのためには様々な方法があり、例えば木々を守ることもそのひとつでしょう。実際、各国において植樹が盛んに行われており、森林伐採も厳しく制限されるようになっています。牛丼店などでは割り箸の代わりに使い捨てではない箸が備え付けられるようになりました。
しかし、どれだけ植樹に励んだところで、1本の木を育てるのに数十年以上の期間を要します。繰り返しになりますが、温暖化は地球に差し迫った緊急の課題なのです。
そこで期待されるのがCCSです。コストや用地確保などの課題が多く残っているのも事実ですが、地中にCO2を埋めるという方法は植樹などに比べれば即効性のある技術と言えるはずです。
もちろん社会全体が二酸炭素の排出量削減に務めることも必要です。いや、むしろそれが最重要と言っても過言ではありません。
いかにして二酸化炭素の排出量を削減するか、そして排出してしまった二酸化炭素をどう処理するのか。その選択肢のひとつがCCSと言えるのではないでしょうか。